30歳ボーダーライン説を脳科学・認知科学で考えてみた

脳・心理学

「30歳を過ぎたら、何事にも新鮮味を感じる感性が落ちる」

「頭が硬くなる」

「覚えが悪くなる」

といったような言葉。

一度は耳にしたことがあるかと思います。

30歳をひとつのボーダーラインとする考えは古今東西にあり、儒学の祖である孔子の言葉をまとめた書物・論語においては

三十にして立つ

茶道三千家の祖・千利休の言葉では

十五より三十まで万事を師にまかするなり。

三十より四十までは我分別を出す、…(中略)…十のもの五我を出すべし

としていました。

中世ヨーロッパでは人の一生を10年ごとに分け、

20 years a youth
20歳は若者

30 years a man
30歳は一人前の男

としていました。

https://shizuoka.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=4429&file_id=31&file_no=1

この30歳ボーダーライン説に何か根拠はあるのか?

脳科学、認知科学の知見を借りて考えてみます。

脳科学における「30歳成人説」

脳科学では、「脳が成熟するのは30歳以降」とする研究があります。

bigthink.com

www.dailymail.co.uk

要約すると、

脳の神経細胞同士を繋げるネットワークの束(白質)が、少なくとも30歳までは脳全体にしっかり行き渡っていない

白質とは脳の白色に見える部分で、神経細胞同士をつなぐ軸索というものがネットワークとして集まっています。

私達が何かを考えたり動いたりする時、脳の中ではこの軸索を通じて神経伝達物質のやり取りをしています。

軸索が集まったネットワークの中のよく使う回路はつながりが強くなり、使わない回路はつながりが弱くなる。

慣れたことが簡単に出来るのは、よく使う回路のつながりが強くなる=その回路の神経伝達スピードが上がっているからです。

例えば初めて車を運転した時はとても怖かったはずなのに、いつの間にかラジオを聴きながら景色を見ながら助手席の人と会話をしながら運転出来るようになっている。

これは繰り返し車を運転することで、その際使われる(よく使われる)脳の回路が強化され、神経伝達スピードが上がったことにより最初よりスムーズにその動作=運転が行えるようになった事によるもの。

この神経伝達のネットワークの束が、少なくとも30歳を迎えるまでは脳全体に行き渡っていないというのが上記英文記事の主旨です。

米国のスタンフォード大学で教鞭をとる神経科学者アンドリュー・ヒューバーマン博士は25歳をボーダーラインとしていますが、言っていることは概ね同じ。

www.youtube.com

10:25~ Everything changes at 25

17:21~ Brain space

要約すると、

25歳およびその±2歳までは消極・受け身の経験によっても脳のネットワークが変わる。

必要とされるものは強化され、不要なものは淘汰され。

それ以降の、脳の中でひとしきり整備された道路のつながりを変えたいのであれば、意識的な努力・フォーカスが必要。

経験により脳のネットワークが変わる性質(神経可塑性)自体は死ぬまで備わっている。

つまりボーダーラインが30歳にせよ25歳にせよ、その前後で学習の条件が大きく変わる。

学習とは知識やスキルの習得だけではなく、運動習慣や禁煙など行動の習慣・思考の習慣・感情の習慣にまつわる学習も含めてです。

ボーダーラインを30歳だとして、それを過ぎると意識的な努力・フォーカスなしでは脳のネットワークが変わらない。

(ただしヒューバーマン博士いわく、強いネガティブな感情を伴う経験によっては変わる)

これはつまり、30歳以降意識的な努力をしない・フォーカスを作らない人は、人生の最初の30年間でたまたま効率の良かった行動パターン・思考パターン・感情パターンでひたすら過去の記憶を再生し続けるだけの固体と言うことも出来ます。

toyokeizai.net

30歳ボーダーライン説は、そこから両極化するという意味では強ち間違っていないかも知れません。

25歳以前と以後の、フロー状態(およびゾーン)への入りやすさの違い

「フロー状態になる」

「ゾーンに入る」

という言葉があります。

フロー状態とはこちらの記事↓でも例を添えて書きました通り、時間の感覚がなくなるほど対象に没頭・没我している状態で、その最も深い状態がトップアスリート等が体験するゾーンといわれるもの。

茶道は総合芸術。主客ともに茶室が舞台の「その場」という時空アートの素材として
茶道は総合芸術といわれます。お茶碗、お茶入れ等お茶をたてる道具から始まり、掛軸、お花など床の間に飾るものお香や炭など嗅覚を刺激するもの、茶室の内装、露地(茶室に至るまでの茶庭)などそれらすべてを尊重し、調和させる統合力。もて...

さて上述のヒューバーマン博士はこうも言っています。

25歳までは、私たちの脳は高い神経可塑性を持っているが、大人がするようには自分たちの生活・人生をコントロール出来ない

脳において自分の生活・人生をコントロールする上で重要な役割を担うのは、理性を司る・しかし成熟の最も遅い部分、前頭前野。

この前頭前野が成熟するのは25歳頃といわれています。

先ほど紹介したフロー状態になると、前頭前野の活動が低下します。

フロー状態になると時間の感覚がなくなりますが、それは脳の一部の機能を停止して「一瞬」に取り込むデータ量を増やすことで、時間の流れが極めて遅く感じられるようになるためです。

若い人、その中でもとくに子どもは、前頭前野が発達しきっていないので実はフローに入りやすい。


超人の秘密:エクストリームスポーツとフロー体験 

↑こちらの本の中に、

QOLの観点から言って、日常生活の中でフローに入る機会の最も多い人が一番幸福

という言葉があります。

つまり若い人や子どもはフローに入る・幸福を感じることについても、学習と同様「大人」に比べ意識的努力を必要としない。

20代後半から早くも

若い時に戻りたい

と言い出す人は、そのあたりの変化を感じているのかも知れません。

ただそのまま意識的な努力もせずフォーカスも作らないのであれば、フローに入りづらくなった状態で過去の行動・思考・感情パターンを繰り返すだけの固体として歳を重ねることに。

さらに言えば肉体も年齢に応じて変化し、自分を取り巻く社会も変化し続ける。

これらを考慮に入れると、劣化した過去の記憶を再生し続ける固体と言ったほうが正確かも知れません。

25歳を過ぎてからも幸福度と脳力を上げ続けるメタスキル

幸福につながるフロー状態になる条件は7つあります。(詳しくはこちらの記事の最後から二番目の章)

①明確な目的
②自律性(自分で決めてやっている感覚)
③取り組む事が限定されている。集中できる
④直ちにフィードバックが得られる
⑤今の自分にとって、程よく難易度が高い
⑥目的だけでなくその活動自体に本質的価値を感じる
⑦行為と意識の融合(自分は何か大きなものの一部と感じる)

25歳を過ぎた「大人」で幸福度も脳力も高め続けられる人は、たまたまこれらの条件がそろった環境に居続けられるラッキーな人か、意識的にこれらの条件を整え続ける人。

一時的に運良くそういった環境に身を置けたとしても、自分でその条件・環境を整えられなければフロー状態を再現出来ない。

たまたま幸せになるか過去の記憶を再生し続けるかというギャンブル人生にしないためにも、フロー状態になるための環境設定能力はきわめて重要なメタスキル。

ボーダーラインを25歳にするにせよ30歳にするにせよ、この辺りの年齢から外面的なものに限らず内面においても差が出てくる。

30歳ボーダーライン説は、そこから両極化するという意味では強ち間違っていないので、フローに入る条件を整えるメタスキルが大事というお話でした。

感想やご質問等あればお気軽にコメントやお問い合わせください、それでは!

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